2005年8月6日、広島原爆ドーム前で、元ちとせは坂本龍一との共演で、原爆の悲劇を被爆者の側から魂をえぐるように書かれた『死んだ女の子』を歌った。この曲はデビュー前に一度レコーディングされているらしいのだが、曲のテーマが重すぎることに元ちとせが戸惑い、リリースはされないでいたという。2004年1月に結婚し、2005年1月に出産。同じ年の11月にシングル『語り継ぐこと』を発表するまで一時、活動を休止していたときに突然、元ちとせはこの曲を歌いたいと言い出したのだ。
母親になり、守るべき存在を得たことで、元ちとせの意識が変わったのかも知れない。子どもたちを守りたいと強く意識したとき、地球の未来についてシリアスに考えざるを得ない。そして、その延長線上にあるのが、このアルバムだと思う。
松任谷由美、松任谷正隆、スガシカオ、常田真太郎(スキマスイッチ)らが参加しているという「売り」はあるが、基本的に、デビュー時から元ちとせを支える、上田現、間宮工、COILといったサウンドクリエイターたちによるプロデュースワークと、諍いの絶えない世界に対し「平和と調和」を訴えかけ、その恒常性を受け継いでいかなければというメッセージが貫かれたコンセプト・アルバムだと思う。