場末の崩れかけた映画館の中にいる。雨の降るモノクロの画面で流れているのは怪獣映画か、外国の長編漫画か、災害の惨状を切り嵌めたニュース画像か、夢の事象の様に見る先から忘れて行く。ただ、映写幕の後ろから轟いていた音楽だけが今も頭の奥で渦を巻いている。3.11以降、呪術師となった平沢の第一作。重ねた音の数で作品を評価したり、平沢=テクノで捉えている方には散々な出来だろう。跳ばないダンサーが評価されないように。だが上手い。上手い事が分からないほど上手い。もう我々が聞きなれたカラオケで消費される歌とは違う次元に飛んでいる。ありえない記憶、持ち得ない郷愁を人に植えつける為に刻まれたリズム、押し寄せる音。その上に平沢の声が乗っている。もうテクノもバカコーラスも裏声もどうでもいい。行き着ける所まで行って欲しい。名盤だ。