明快なまでのパンク精神でロックの初期衝動をかき鳴らしたセカンド・アルバムは、多くの聴き手の共感を呼んだ。しかし3枚目となる今作には、ラウドなギターも喉をつぶしそうな激しいシャウトもない。優しいメロディが全体を包みこみ、AIR=車谷浩司の少し線の細い声をよりよく生かしている。そしてそこに映し出されるのは、個人の心象風景である。笑えない日やただ涙する日があることを、ロマンティックに物思う自分や政治に無関心でいられない自分がいることを、ポツポツと語る。しかしそれは、決して自己完結ではない。今の自分と向き合うことは、“ここから先の自分”を探す上で必要不可欠な作業である。そこに直截のメッセージを見出すことはできないかもしれないが、あるがままの姿を露わにする姿勢は、胸を打つ。ブレイクビーツの波に揺られながらその先の世界へと泳いでいくのは、未知の可能性にあふれた自分なのだ。静かだが、芯の強いアルバムだと思う。