石川さゆりは、若い頃から、伸びと艶のある美声と歌の上手さには定評があったが、その美声は、年月を経た現在でも、輝きを失ってはいない。多くの同年輩の歌手が、テレビで、往年の伸びを失った声で苦しそうに歌っているのを見るにつけ、声をも襲う「老い」の残酷さに、若い頃を知る我々としては、淋しい思いをさせられるのだが、そんな中で、石川さゆりは、数少ない貴重な存在といっていいだろう。
石川さゆりは、たとえば、「BS日本のうた」での「スペシャル・ショー」の枠でも、カヴァー曲を積極的に取り入れるというようなタイプではなかったので、「石川さゆりは、歌は上手いが、必ずしも、器用なタイプではない」というのが、私の印象だった。そんな彼女が、何と、10年の長きにわたって、20世紀の名曲を、こつこつとカヴァーしてきたということを、最近まで知らなかったのは、カヴァー曲大好き人間の私としては、全くの不覚だった。
演歌系の嫌いな私は、今回、そんな10枚のCDの中から、比較的、ポップス系の選曲が多い、この第10集と第9集を聴いてみた。
私は、歌が上手い人が、必ずしも、器用にカヴァー曲を歌いこなせるとは思っていないのだが、二つのアルバムを聴いた後の率直な印象としては、石川さゆりは、やはり、器用なタイプの人ではないと思う。全体的に、今一つ、曲に乗り切れておらず、型にはまったメリハリの弱い歌唱が目立っており、聴く方も、今一つ、乗り切れないのだ。
同じ演歌系歌手でも、若手の島津亜矢、門倉有希、石原詢子などは、どんなジャンルの曲でも器用に歌いこなしてしまうのだが、石川さゆりは、持ち歌を、じっくりと練り上げて聴かせるタイプなのだろう。ただ、第10集と第9集の中でも、最もポップス色の強い「ルイジアナ・ママ」で、抜群に乗りの良い、一番の好唱を聴かせていたことは、全くの想定外の驚きであり、これは特筆しておきたい。
By gl510