― なにもない ここから ―OGRE YOU ASSHOLE
1曲目のギターの音色がすべてを物語っている。力の抜けた、ゆるく、メローでチルな感性が広がる。「諦めて/おいで/これまでは/置いて/広い所へ/飛び越えた/あとはもう/見た事がない場所が/前に見える」
この歌詞が暗示するように、『100年後』は、山を登っていたらいつの間にか、だだっ広い草原、まだ足を踏み入れたことのない広い場所に自分がいる、そこには心地よい風が吹いている……たとえばそんな空想をうながす。『100年後』とは、『homely』で見せた高いテンションの後のドリーミーなリラクゼーションである。
オウガ・ユー・アスホールの3人は、前作の続編を作るような手抜きをしなかった。彼らは、ある意味ではよりポップな展開を探求していると言えるだろう。サイケデリックだが、AOR的でもあり、何気に聴くと歌謡曲みたいだが、実はエクスペリメンタルである。相変わらず音を聴くことの楽しみがある。遊び心旺盛で、さまざまなトリックや仕掛けがある。音でトリップしたい人はヘッドフォンで聴くと良いでしょう。
今日生きている人間のほとんどが居なくなっているであろう『100年後』という未来を示すアルバム・タイトルも興味深い。そして、アルバムの最後に繰り返される「なにもない」という言葉が、これほど切なく前向きに響いている音楽もない。
【解説】
アルバムごとに常に新たなアプローチを成功し続けてきたオウガ。 前作の「homely」で一段とその音楽性を高め、ロックシーンのみならず、サブカル、クラブシーン、多くの有名DJ陣、そして海外にまでその名前を知らしめた彼らの最新フルアルバムが早くも完成。 今作はミドルテンポやスローな楽曲が多いが、homelyの印象とはまた違う、優しく、楽しく、そして怪しい、オウガならではの浮遊感あふれる作品。 絵画的、都会的であるサウンドに一見投げやりな歌い方にも感じる出戸の叙情的な美しいメロディラインが、すっと心の隙間に入り込み全身の力が抜けていく、繰り返し聞きたくなるようなアルバムです。どんな新しいアプローチを行おうとも、決して根本的な姿勢がぶれず、オルタナティブなバンドスタイルに、出戸の紡ぎだす強いメロディラインが合わさる事でしっかりと「オウガ」である5枚目。
2011年のhomelyリリース以降、全国ツアーにおいても赤坂ブリッツをソールドアウトさせ、サカナクション、the telephonesらと毎年行ってきたイベント、「version21.1」も4年目にして、ZEPP NAGOYA、なんばHatch、横浜アリーナを盛況に終了。
2010年代のシーンの中で一際、異彩を放つアーティストとして独特のスタンスと存在を築き上げたオウガ。 現在の音楽シーンにおいてあえて「自由」に表現し、そしてその作品が人々の心にすっと入り込むPOPであるという貴重な名盤の誕生。