京都発、mol-74 の新作『kanki』は、バンドが新たな季節を迎えたことを明確に感じさせる重要作だ。
ボーカル・武市和希の透明度の高い歌声を最大の武器に、アコギやピアノを織り交ぜて冷たくも暖かいサウンドスケープを描き出す、北欧のバンドにも通じる幻想的な世界観はもちろん健在。
その上で、本作ではこれまで内向きだった表現が、外側へ向けて開かれているのが最大の特徴なのである。
そんな変化を象徴するのがリードトラックの「%」。
いつになく疾走感を感じさせるサビが印象的なこの曲は、元を辿れば国内のロック・バンドに憧れて音楽を始めた彼らならではのJ-ROCKを表現した一曲だと言えよう。
中盤にはゆったりとした反復を基調とする内省的な楽曲も並べつつ、ラストの「開花」は開放的なコーラスをフィーチャーした一曲で、本作の外向きなムードを改めて印象付けている。
タイトルの『kanki』は、「歓喜」「喚起」「寒気」「換気」といった様々な意味を含んでいるが、これまでの繊細さを受け継ぎつつ、より力強い表現へと向かった本作のことをよく表している。
また、自身の内に秘めた悲しみと向き合ってきた歌詞に、自らの道を切り開くべく未来を見据える視点が加わったのも大きな変化だ。
第2 章の始まりとも言うべき本作を契機に、彼らがより多くの人に発見されることは間違いないだろう。